待望の酒解禁日で、4時過ぎにヒゲのマスターのバーで食前酒を入れてから、5時の開店直後に店に入りました。
お客さんが来る前にと思って、カウンターに座るなり気になってことを聞いてみました。
それは、その数日前に調べたゴボウ料理のことです。
ちょっと玄人向きの料理書に書いてた、「ゴボウはアクを抜くな」ということについて聞いてみたんです。
大将が一番初めに口にしたのは、「なにをアクと捉えるかです」という言葉。
そこからだいたい次のような話になりました。
水煮になって真っ白の状態で売られてるゴボウを基準にすれば、土付きのゴボウはアクだらけでさらさなあかんモンや。でも、和食の人間は、アクも含めて味やと捉えてる。
ここで、大将が近所の高校生を時々課外授業の一環で店を見せた時の話になりました。
今の高校生に「どんな味がある?」って聞いても、「甘い、辛い、酸っぱい」くらいしか返ってこないと。ちょっとマシな子で、「苦い」と言える程度。
和食じゃ、それ以外にも味として、”渋み”、”えぐみ”、”しわみ”なんてもんがある。
大将は、たしか”しわみ”って言いはったと思います。私も恥ずかしながらこの言葉を知りませんでした。(だから、ちゃんと聞けてないかも知れません)
*ちなみに手元の国語辞典には載ってませんでした。
山菜や魚のワタのように、ちょっとクセのある味も和食では、”旨さ”として大事にするという意味でした。
今はポピュラーなゴーヤ(苦瓜)でも、ただ苦いーっと嫌う人もあれば、それも味の内だと思う人がいます。
私は、複雑で独特の癖のある味については”これは、旨いモンや”と頭で理解しつつ、実際に食べる経験を重ねないと良さを評価出来ないんでしょうねと伝えました。
味が平坦で口当たりが優しいだけの現代的な食べモンばかりを食べてると、山菜なんかの一種荒々しい味は受けつけられなくなりそうです。
ゴボウの下処理の話から、しばらく味とそれを感じる力について話が盛り上がりました。
実際に、今回は全くさらさないできんぴらを作ったが、それはどうなのか聞いてみました。
私がただ切って料理してそれなりだったのは、きんぴらという料理法だからとのことでした。煮物のような場合はアクが強すぎただろうと言われました。そして、もちろん色も非常に悪くなるだろうと。
じゃあ、”さらす”ということになるんですが、大将曰く「そこで、何をアクと捉えるかが重要だ」ということでした。
素材としてのゴボウの個性がきっちり残ってる状態で、口にマズイ範囲でのアクをある程度だけ除くのが、本来の”さらす”だと。
だから、ささがきで切ったヤツを水の中に放して行くなら、切り終わったらすぐに上げるだけでさらせてる。あくまでもその程度のさらしが必要で、それ以上は味を落としてるとのことでした。
さて、この日に食べた料理を紹介します。この日は初めて大将の店で写真を撮りました。ブログの話も以前にしてたから、大将がどうぞって言うてくれました。
お客さんが来たら辞めますって言うてたんですが、大将が構わんって言うてくれたんで初めて最後まで写真に撮りました。
私の腕じゃ写真がショボくて料理に申し訳ないですが、こんなモンを食べました。
”尻高”、”シッタカ”とか”がんがら”と呼ばれるそうです。
大将がカウンターの中で椀モノを仕込んではる時に、
冬瓜みたいなもんが見えるなあと思ってたのが、
この「賀茂瓜」でした。
冬瓜に見えると思ったのは、実は間違いではなく、関西では元々冬瓜のことを賀茂瓜と呼んでたそうです。
流通業者が標準語で扱うようになって冬瓜が一般的になったけれど、自分らは賀茂瓜としか呼んだことがないと言うてはりました。
ちなみに、私はこの日に初めて賀茂瓜という呼び名を聞きました。
トロミのついたダシに入ったぬくい冬瓜も美味いモンやなあと思いました。たっぷり目に添えられたワサビがええ香りでまたよう合(お)うてました。
これ、何か分かります?
この日、実はおまかせを注文しながら、めったにしないことですが、お造りを鱧に差し替えられないか聞いてみました。
すると大将が、「今日の内容なら鱧に差し替えはできるけど、ちょっと珍しいモンが入ってるんやけど」と言うてくれました。
大将が、”珍しい”なんて言うたら食べとかな損みたいモンに決まってますから、即座に鱧は撤回。完全に任せますって伝えたんです。
それで出てきたのが、写真のモンです。
これ、「おばけ(尾羽毛、さらし鯨)」なんですが、見てそうと思いますか?
私には全くおばけに見えませんでした。
私の中では、もっと目の粗いちょっとプラスチックみたいなモンこそが「おばけ」だったんで、最初は分かりませんでした。
私の知ってる方のおばけにしても、あんまり食べたことはないんです。どれも酢味噌を付けて食べましたが口のなかでシャゴシャゴするだけのあんまり味のないモンという感想でした。
昔に2,3回食べてどれも大して美味いモンじゃないと思ったんで、今は自分からは食べようと思わん食べモンです。
ところが、食べてビックリ。まったく私の知ってるおばけとは別モンでした。しっとりして、味わいがあるんです。
酢味噌みたいな素材の風味を抑える食べ方ではなくて、ワサビ醤油で食べたんですが、純粋に「旨い食いモンやなあ」と思いました。
「ちょっとモノのええヤツですわ。」としか大将は語らんかったんですが、こんな言い方しはる時は、半分自分の趣味で仕入れたようなもんやと思います。
この店の値段設定ではとても手が出せんもんでも大将は自分がコレを出したいと思うと仕入れはるようなんです。
こんな珍しい”おばけ”が食べられてラッキーでした。
続いて出てきたのが焚き合わせなんですが、ちょっとこれがおもろかったんです。
料理が出てから、私があんまり喜んでるから、大将も
「わざわざ、今メニューを変えたわけや、ないんですがねえ。」と笑ってはりました。
なにが”おもろい”かというと、その焚き合わせにゴボウが入ってたからです。
それも単なるゴボウじゃなくて、「管(くだ)ごぼう」というモンです。
私は和食のちゃんとしたモンを食べた経験が浅いんで、初めてですが、世間じゃけっこう当たり前なもんかもしれませんが・・・。
管ゴボウというのは、文字通り”管”になってるゴボウですが、そろそろ写真を見て貰いましょう。
管ゴボウと牛肉の炊き合わせ
冒頭に書いたゴボウの料理法を書いてた本に、この管ゴボウの作り方も出て、こんなもんホンマにやれるんか?なんて思って読んでたんです。
見事に真ん丸で、内壁の表面もなめらかな管状に料理されてました。
おそらくこの店でも初めて食べたと思います。
なんで、こんな風にするんでしょう?
食べるとゴボウの風味が非常に良く出てたんで、やっぱり皮に近い一番濃いゴボウの風味を味わうための料理なんでしょうか。
本では簡単にしか作り方が出てなかったから、大将にどうやるんですか?と聞いてみました。
すると大将は、ちょっと悪戯っぽく「作り方が分からん不思議な食いモンがあってもええんとちゃいますか。まあ、こんなもんもあるんやと思って食べてください」と言いはりました。
それにしてもすごいタイミングだったんで、笑ってしまいました。
ところで炊き合わされてた牛肉もまた絶品でした。
すき焼き風のタレにサッとくぐらせて、サシの脂がとろける程度に熱を入れてありました。旨い肉なんかめったに食べないんで、牛の脂分の旨さを堪能させて貰いました。
ウナギの白焼きと、カワズ瓜(蛙瓜?)とジュンサイの鉢です。
瓜と一口に言っても、種類ってぎょうさんあるんですね。たまにちゃんとした和食を食べる喜びの一つは、その辺のスーパーには流れないような食材に出会えることですね。
ウナギは2回目の土用の丑に近かったからでしょうか。
タレに付けて焼くのが一番ポピュラーでしょうが、こうした白焼きも結構好きですね。
純粋に鰻の旨味を感じられる気がしました。
揚げた賀茂茄子の田楽とご飯です。
揚げ物を控えてるから、油をたっぷり吸ったナスビが嬉しかったですね。
ナスビを料理する時は、和食、洋食、中華を問わず、これでもかってくらい多めの油を使ってやるとナスビの旨さが引き立てられる気がします。
この写真のご飯のお茶碗と、湯飲みは大将の作品です。
(漬けモンの皿は小鹿田焼きやったと思います。)
湯飲みは私が譲って貰った杯と同じ系統のデザインやと思います。
このお茶碗と湯飲みも非常に使った感触がええんです。ただデザインがええとかじゃなくて使ってみてホンマにスッと手に馴染み、口を付けても違和感がないんです。
またいつか折を見て、このお茶碗と湯飲みも譲って貰おうかなあと思ってみてました。
いつもは、すぐ次の日にネタにすることが多いのに、じっくり感想を書きたかったから上げる時期がえらく遅くなってしまいました。
月1回しか通えない中で、今回はいつも以上に満足度の高い1回でした。